在任期間が20年に及んだヌアイミ石油鉱物資源相が突如、解任された。その後任にはムハンマド副皇太子のインナーサークル、側近であるハリド・ファリハ保健相が起用された。この人事にサプライズはないが、ムハンマド副皇太子の台頭に象徴されるように、サウジアラビアでは新世代へのバトンタッチが目立つ。世代交代が新陳代謝を促すのか(6)。
石油鉱物資源省はエネルギー産業鉱物資源省と改称され、ファリハはエネルギー産業鉱物資源相とサウジアラムコ会長を兼務する。早速、市場シェア維持を最優先する方針を表明、原油増産も辞さない構えを示した。ライバル国、ことにイランと全面対決する姿勢を鮮明にしている(7)。サウジアラビアはOPECの盟主として、新たなOPECの存在理由を模索せざるを得ない(8)。イランと対立しつつ、不協和音が目立つOPECを修復できるのか
行革ではまた、水利電力省は廃止され、エネルギー産業鉱物資源省に吸収された。エネルギー産業鉱物資源省はサウジアラビア経済の53%を所管することになる。省庁再編では商工省が商業投資省に、農業省が環境水利農業省にそれぞれ改変され、労働省と社会問題省は統合される。
行政改革は整然と進むだろう。だが、旧世代、抵抗勢力の既得権益に抵触するやいなや、改革は頓挫する可能性がある。壁を打ち破ることはできるのか。政治改革、すなわち絶対君主制から議会制民主主義体制への移行なくして真の改革はありえない。これは副皇太子の立場を危うくすることと同義だ。その勇気があるのか、ないのか。結局はそこへ行き着くことになる。
「ビジョン2030」が示され、行政改革の第一歩を踏み出したサウジアラビア。脱石油依存への道は明らかにサウジアラビアのポスト石油経済へと向かう新秩序への道程ではある(9)。サウジアラムコのナセルCEOが指摘するように、経済構造の多角化の核心はサウジアラムコにある。つまりサウジアラムコの民営化プロセスが変革のリトマス試験紙となる。
合わせて、サウジアラビア政府は「国家変革計画2020」も公表している。2020年までに非石油収入を1,635億リヤルから5,300億リヤルへと3倍以上に増やし、かつ民間部門で45万人の新規雇用を創出する、その一方で歳出に占める公務員給与のシェアを45%から40%に抑制するという具体的な数値目標も打ち出された。付加価値税(VAT)の導入や水道・電気料金補助金の削減で財源を捻出する。非石油部門の輸出額を1,850億リヤルから3,300億リヤルに拡大する目標も掲げられている(10)。
もう一つ。経済変革には外国資本は不可欠。規制撤廃と外資誘致を同時進行させていくべきだろう。米ゼネラル・エレクトリック(GE)が再生エネルギーや水処理、それに航空といった分野に14億ドルを投下するという(11)。具体的にはGEとサウジアラムコなどとエネルギー・海洋関連の工場を建設、雇用の創出に貢献する。今後、日系企業の商機拡大も見込める。
逆に、サウジアラビア公共投資ファンド(PIF)から出資を受ける米企業もある。PIFが米配車サービス最大手のウーバーテクノロジーズ(サンフランシスコ)に35億ドルを出資、5%の株式を取得する。PIFを軸とする収益源多様化の具体的な案件と位置づけられる(12)。
問題は経済効率。生産性を改善しないとサウジアラビア経済は再建できない。サウジアラビアでは政治改革にも通じる問題でもある。これはどうしても不確実性を醸成してしまう。投資家の一部はサウジアラビア経済の脱石油宣言に懐疑的であることをあえて付言しておきたい。代替策が不在のなか、茨の道であることは間違いがない。
ホワイトハウスはサウジアラビアを見限り始めている。追い詰められたサウジアラビアは対米関係を修復しようと、米国資本を受け入れる方針に転換した。サウジアラビアの石油政策、脱石油路線は詰まるところ、対米関係の行方に如実に投映されていく。