価格重視から市場占有率優先へと方針を転換していた石油輸出国機構(OPEC)が再び,原油価格の安定重視へと回帰した。2016年11月30日,オーストリアの首都ウィーンで開催されていたOPEC総会で加盟国は8年ぶりの減産で合意。OPEC加盟国全体で日量3,250万バレルへの減産で一致した。2016年10月期のOPEC産油量が日量3,364万バレルであるから,日量114万バレルの産油量が絞り込まれることになる(1)。
2017年1月からOPECの盟主サウジアラビアが日量50万バレルを減産するほか,加盟国は一律に4.5%の生産削減に応じる。ただ,イランが増産の余地を確保したことに加えて,産油量を増やせていないナイジェリアとリビアは減産の適用を免除されている。中東地域で政治,軍事的に鋭く対立するサウジアラビアとイランとが一定の歩み寄りを見せたことが減産合意を実現させたことにつながっている。
OPECは2017年の原油需給が日量3,269万バレルと試算しているが(2),加盟国が減産を遵守すれば,供給量がやや上回る程度にまで抑え込まれることになる。仮にOPEC加盟国が減産を遵守するとして,市場の関心はOPEC非加盟国の産油量にシフトしていく。
OPECは原油輸出シェアを確保すべく,米国のシェールオイルに対抗する姿勢を鮮明にしてきた。ところが,世界的に原油在庫が積み上がり,国際価格は低空飛行を続けた。産業構造が多様化している米国とは違って,産油国は例外なく,オイルマネーの流入に経済成長が支えられている。原油価格の低迷は産油国の台所を直撃,財政赤字やマイナス成長を余儀なくされた。
無謀にもイエメン内戦に介入するサウジアラビアでは戦費がかさむ一方で,税収が激減。2016年は対国内総生産(GDP)比13%の財政赤字予算に苦しむ。同国政府は2016年9月,閣僚給与や公務員手当てを削減して,財政支出の抑制に踏み切っている。加えて,赤字幅が縮小するとは言え,2017年予算でも1,980億リヤル(6兆2,000億円)の歳入不足となる(3)。
さらに,国営石油会社サウジアラムコの株式を市場に放出する新規株式公開(IPO)が実施される予定で,このIPOを成功裏に導くためにも原油価格の安定が必要条件となっていた。脱石油依存を標榜するサウジアラビアだが,それは一朝一夕に実現できるはずもなく,時間とコストを伴う。財政緊縮策を重ねることになれば,国民の不満が爆発し,その矛先が政府に向けられることをサウジアラビア王室は警戒する。
他方,イスラム教シーア派を率いるイランは国際社会による経済制裁解除を背景に,原油増産姿勢を崩さない。英蘭系国際石油資本(メジャー)の一角を占めるロイヤル・ダッチ・シェルがイラン投資を表明するなど,日欧米諸国は一様にイランとの関係改善に舵を切っている。中東でシーア派連合を束ね,国際舞台に復帰したことがテヘランを強気にさせている。
この強気を維持するには外資系企業による対イラン投資や技術移転が不可欠ではあるけれども,影響力を弱めるサウジアラビアを横目に,中東地域でのイランのプレゼンスは確実に強化されてきている。これが中東地域の勢力バランスを不安定にしていることは言うまでもない。ここにロシアが勢力を伸張する空間が生まれている。