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連載・地殻変動する国際エネルギー資源業界


           大阪商業大学総合経営学部教授・経済学博士・中津孝司
 




  

   

消耗戦に突入した米中貿易戦争。自国産業保護策の報復措置応酬に終点は見えず,敗者となる中国の経済は不透明さを増している。貿易戦争の勃発以前から変調を来たしていたところに,ホワイトハウスから攻め込まれてしまった。トランプ米政権の狙いは中国政府が産業高度化を目標に据える「中国製造2025」戦略の妨害にある。

言うまでもなく,中国では21世紀の現在でも前近代的な共産党一党独裁が貫徹される。経済運営,企業育成はすべて国家が舵を握る。社会主義市場経済なるものを北京は目指すが,本来,社会主義と市場経済の共存は不可能。ハイテク産業の振興と関連企業の育成さえ国家総動員方式で進められる。コストと時間の節約化,効率化を図るためと解説されるが,所詮,企業は国家のエージェントに過ぎない。

市場としての魅力から外資系企業も中国を軽視できないとされてきたけれども,今や世界支配を狙う中国と決別する時期を迎えたのではないか。大きな歪を抱えてしまった中国経済の実相を追跡する。

 
   

中国の家計が抱え込む債務規模が危険水域に入っている。国際決済銀行(BIS)が公表した統計数値によると,2017年第4・四半期における家計債務の対国内総生産(GDP)比は48.4%で,39兆9,670億元(651兆5,000億円)に達し(1),制御不可能な水準となっている。中国では住宅価格が上昇,不動産バブルの様相を呈して久しい。これに伴い,住宅ローンも膨らむ一方である。個人向け住宅ローンの融資残高は2018年3月末時点で22兆8,600億元と家計債務の6割を占める。加えて,クレジットカードが大量に発行され,そのローン残高は5兆8,000億元と米国並みに達する。

日本,米国,ユーロ圏の国家群であれば,交換可能通貨を保有するため,債務のショックを緩和できるが,周知の通り,人民元は使い勝手が悪い。中国の国境を越えた途端,役に立たない紙くず同然の代物と化す。

金融危機以降,基軸通貨国の米国を筆頭に,世界各国は大規模な金融緩和策を矢継ぎ早に打ち出した。それは量的緩和策とゼロ金利策とで構成された。しかし今,この緩和策を修正する時期を迎えている。

米国社会は完全雇用状態下にあるにもかかわらず,大型減税と財政刺激策,すなわち財政赤字の垂れ流しによって恣意的な好景気が演出されている。財政赤字が膨らむと,長期金利が跳ね上がる。経済の過熱感から当然のことながら物価上昇リスクも高まる。金融当局は利上げへと舵を切らざるを得ない。米金融当局が利上げに踏み込むと,世界各国も通貨防衛のため利上げを余儀なくされる。つまり利上げの波で世界全体が覆われることになる。金利が引き上げられると,直線的に債務,すなわち借金を膨張させてしまう。

借金を抱えるのは家計だけではない。中国では企業債務も2016年にピークに達し,金融危機への不安が高まった。住宅価格の下落,すなわち不動産バブルの破裂は必然となるが,中国政府が住宅価格の下落を容認できるか。容認できなければ,家計債務は減少しない。

中国ではまた,インターネット金融の破綻が後を絶たないという(2)。2018年に入って330社が廃業,債務不履行総額は300億元に及ぶ。個人投資家から資金を募り,ネットを媒介して個人に資金を融通する仕組みだが,ゾンビ企業の延命も招くという弊害も目立つ。社債,信託商品,ネット金融の不履行額は合計で800億元に上るとされる。

要するに,中国経済は借金漬けによって支えられている構図なのである。国民1人当たりの家計負債は3万1,200元と可処分所得に対する負債比率は120%(3)。このような歪な状況は長続きするはずがないが,景気優先の姿勢を強める中国共産党は過剰債務問題にメスを入れられないでいる(4)。逆にインフラ投資を積み上げる始末。貿易戦争激化への備えでもあるが,問題の先送りは傷口を広げてしまう。

 
   

米国が仕掛ける貿易戦争の実態は中国から輸入される財・サービス価格に追加関税が上乗せされる保護策である。当然,中国による輸出は打撃を被り,実体経済に負の影響を及ぼす。損失を和らげる手法は唯一つ,通貨安誘導である。通例,自国通貨が下落すると,特に,新興国の場合,通貨を防衛すべく米ドル売り介入を敢行する。結果,外貨準備金が減少する。中国の場合,変動為替相場制ではなく,管理為替制度が採用されている。市場機能は無視されるから,通貨当局による恣意的な誘導が可能となる。

にもかかわらず,中国の通貨当局は元買い・米ドル売りの為替介入を見送っている。この姿勢は元安を黙認していることを示唆する。貿易戦争による衝撃を弱めるために他ならない。元安で輸出を下支えできるかどうか。元安を放置すると,輸入企業のコストを押し上げるだけでなく,急激な資本流出が再発するリスクを伴う。米中対立が貿易戦争から通貨安戦争へとシフトするなか,人民元を国際通貨に仕立て上げるという夢の実現は遠い。

一方,米中貿易戦争は中国株を直撃している。主要株価指数の上海総合指数は2018年初から下落,2016年1月に記録した中国株バブル崩壊後の安値である2,655が視野に入ってきた。ことに,ハイテク株,景気敏感株,防衛関連株の下落が目立つ。中国株急落の導火線は2015年8月の人民元切り下げによる,いわゆるチャイナ・ショックにあった。足元でも通貨当局は元安を黙認していることも相まって,株式時価総額は急減,日本株を下回る水準に沈む。中国株下落の悪影響はアジアの株式市場全体に及ぶ。

金融市場の動揺は早晩,実体経済をさらに蝕む。中国経済の前途は多難である。

 
 
中国の通貨・人民元と株価の相場推移
 
 
(出所)『日本経済新聞』2018年8月7日号。

(1) 『日本経済新聞』2018年8月2日号。

(2) 『日本経済新聞』2018年8月8日号。

(3) 『日本経済新聞』2018年8月9日号。

(4) Financial Times, July 31, 2018.

 


  

   
 







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